リモートワークの定着、ネックはコンプライアンス。

先日、南青山に事務所を構える広告制作会社の社長さんを訪ねた。

そこの事務所は大手のクライアントがCMに使う画像のレタッチをしている。業界ではトップの企業だ。

従業員は10名ほどで、僕が訪ねた時は新型コロナウイルスの非常事態宣言下だったので、「今、スタッフは全員、リモートワークで働いている」とのことだった。

普段は、事務所に設置してある随分とハイスペックなPCを使用する仕事なので、在宅でできるのかな?と疑問に思ったが、「PCは遠隔でも操作できるし、リモートでも業務にはまったく支障がない。技術的には何の問題もない」と社長さん。

では、これからリモートワークは増えるのか。

「増えるでしょう」

そうなるとオフィスも広い場所を借りる必要がないので、特に資金繰りが厳しい事務所なんかだと、今よりも小さなマンションに引っ越すところも増えるでしょう、とも。

もしそれが現実なら、コロナをきっかけに不動産不況がくるかもしれない、と僕は思った。ただ社長さんは、こうも言った。


「ただ、リモートワークの唯一のネックはコンプライアンスですかね」

広告の仕事では、広告が世に出る前に情報が漏れないように、製作会社は代理店や広告主と守秘義務契約を結ぶ。ただ、日本の場合、制作会社とその制作会社に帰属するスタッフとの間の契約関係が曖昧なのだ。本来は必要な雇用契約書や請負契約書が存在しない場合もある。



僕が訪ねた事務所がそうだと言っているのではないが、そもそも契約社会が徹底していない日本の社会では、会社と従業員の間の権利・義務関係が曖昧なまま、後輩は先輩の背中を見て仕事を覚える、みたいな状況にある。

だから、スタッフを狭いオフィスに閉じ込めて作業させることによって、会社としての守秘義務を履行するスタイルを取らざるを得ない。

新型コロナウイルスのパンデミックのおかげでリモートワークが広がったし、報道によると、リモートワークを経験した人の多くが、これからもリモートワークを続けたいと言っている。

リモートワークが定着すれば、会社にしてみれば、たまにスタッフが集まって会議する部屋と応接室だけを用意すればいいわけで、ランニングコストの低減にもつながる。

一見、いいことばかりのリモートワークが、今後、定着するか?

それは、個々のスタッフと守秘義務も含めたちゃんとした労働契約を結ぶという、他の先進工業国であれば当たり前に行われていることを、日本の会社ができるかどうかにかかっていると思う。言い換えれば、契約社会の意味すら理解していない人が多い日本の社会が、世界標準の契約社会に移行できるかどうか、にかかっている。

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